【短編小説的な】ウクレレマシンガン

もう20年近く前のことでしょうか。
ふと思いついたお話がありました。

短編小説というか、寓話というか、
そんなようなものです。

いつか何かの形にしたいな〜と思いつつ、
それはずっと僕の頭の中にあるだけでした。

こないだ、そのことをふと思い出しまして、
文章にするのは初めてですが、書いてみます。

『ウクレレマシンガン』というお話です。

目次

寓話『ウクレレマシンガン』

どこかの国で長い戦争が続いていました。

密林の中を一人の兵士が歩いています。

仲間からはぐれて、
森の中で迷ってしまったのでしょうか。
物音に神経を尖らせて
茂みを小銃でかき分けながら、ゆっくりと歩いています。

体力も気力もとっくに限界を超えていました。
早く隊に戻りたいけども、
どこに敵兵が潜んでいるのか、わからないのです。

盛り上がった頬骨のあたりをじっとりとした汗が流れます。
目の下は窪んで、クマが出ています。
どれだけ密林の中を歩いたでしょうか。
だけど、いくら進んでも見覚えのある景色は現れないのでした。

* * * * *

代わりに目の前に現れたのは
自分とは違う服を着た兵士でした。

相手も自分と似たような小銃を構えていて、
その銃口はこちらを向いています。

なぜ気づかなかったのでしょう。
あんなに気をつけていたのに。

銃口を向け合って対峙したふたりは、
お互いを鏡に映した、だまし絵のようです。
見開いてまん丸になった目には、
恐怖と動揺と混乱が映りました。
それもふたりとも同じでした。

撃たないと撃たれる。

そうわかってはいるけども、
誰かを撃ちたくなんかないのです。
ふたりとも仕方なく戦争には来たものの、
誰かを傷つけることはしたくないと思っていました。

一瞬の躊躇があってから、
ふたりは恐ろしい雄叫びの声をあげました。
良心や暮らしぶりや家族や田舎の風景やそんなことを全部、
今するべきことが飲み込みました。
密林だけがその瞬間をじっと見ていました。

そしてふたりは引き金を引いたのです。

パン!と乾いた銃声が
あたりの湿った空気を揺らす、はずでした。

だけど、聞こえたのは
可愛らしい、ポロン、という音だけでした。

あたりにそれ以外の音はなくて
シンと静まり返っているようです。

そして目の前の敵兵は倒れていません。
弾が逸れたのでしょうか。
恐怖はさらに高まって、もう一度、引き金を引きます。

もう一度、もう一度……。

だけど、その度に銃はポロンポロンと
かわいい音を鳴らすのでした。

引き金を引いてポロン、
引き金を引いてポロン……

結局、お互いの小銃から弾が出ることはありませんでした。
なぜなら、ふたりの小銃は、かわいいウクレレになっていたからです。

ふたりはウクレレを構えて
ポロンポロンと撃ち合っていたのです。

* * * * *

手にしているのがウクレレだと気づいたふたりは
いっぺんに気が抜けて、
その場でぺたんと尻もちをつきました。

かたわらに2本のウクレレが転がります。

相手と2本のウクレレを何度か交互に見てから、
突然、ふたりは可笑しくて仕方なくなって
顔を見合わせて大笑いしました。

腹がよじれるくらいに笑って、
それからお互いのウクレレを見てまた笑うのでした。

腰にはナイフもありましたが、
それを使う必要はもうありませんでした。

笑うのに疲れたふたりは座り込んだまま一息ついて、
それから、ふたりはいろんな話をしました。

それぞれの村のことや家族のこと、今の季節にはどんなことをしているか。
村にいるときによく言っていた冗談が、久しぶりに口から出ます。

そうやって何時間か話をして、
最後に軽く抱き合ってから、ふたりは別れました。

そのあと、どうにか故郷に戻ったふたりが再び会うことはありませんでした。
戦争は続いていましたが、ふたりはそれぞれ、幸せに暮らしたのです。

* * * * *

水の美しさ〜〜

ではまた明日〜
いつもご訪問ありがとうございます。

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